地平線への鍵 【Sound Horizon考察】

HOME > Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜 > 総合考察Phase-1「求めしは“神”の名を持つ娘」

総合考察Phase-1「求めしは“神”の名を持つ娘」

 ここで触れるのは、時系列の始点に選びました「エルの肖像」と、次点の「魔女とラフレンツェ」についてです。


 曲の冒頭に「如何にして楽園の扉が開かれたのか」という記述が存在する「魔女とラフレンツェ」ではなく、「エルの肖像」を物語全体の始点に選んだのには、もちろん明確な理由が存在します。
 その中で最も大きな割合を占めるのが、「魔女がラフレンツェを生んだのか」の下りが、ラフレンツェの曲中に登場する材料だけでは説明不可能だからです。
 少し考えれば解ることですが、ここでいう『魔女』は、オルドローズでは有り得ません。
 何故なら、彼女は捨て子であったラフレンツェを拾い、育て上げはしましたが、決して自らの腹を痛めて産み落とした訳ではないからです。
 勿論、「魔女としてのラフレンツェ」を生んだのがオルドローズ(の教育)だという解釈は可能ですが、だとしたら「魔女が魔女を生んだ」で済む話でしょう? 敢えて思わせぶりな台詞を入れる必要性が、この場合には存在しないんです。

 ならば、ここでいう『魔女』とは何者なのか。これを説明可能にする為にも、「エルの肖像」を始点にする必要が有った訳なのです。
 この「エルの肖像」に登場する少年が、後の「仮面の男」であるとしていらっしゃる方は大勢います。私もこれには全面的に賛同する意向なのですが、更に「ラフレンツェ」に於ける「オルフェウス/Orpheus」に比喩されている青年も、同一人物だとする一派に属します。
 後で誤解を生まぬように纏めておきますと、

「『肖像』の少年」=「オルフェウス/Orpheus」=「エリス(エル)の父親」≒「仮面の男Abyss」

となります。

 さて、これらを踏まえた上で更に、これ以上の解説を進めるには、私が選択せざるを得なかった些か大胆にも思える仮説に言及しなければなりません。

 それは、
“肖像画に描かれたエリスは、「エルの楽園」に登場するエリスとは別人”
であり、
“ラフレンツェの実母、乃至はそれに準ずる近親者”
という代物です。

 無論、この説に対して否定的な受け止め方をする方も多いと思われますが、少し考えてみて下さい。これをはっきりと否定できる材料が、果たして有りますでしょうか?
 肖像画に描かれているのは、確かにエリスという名の少女が8歳の時の姿であり、「病的に白い」という形容的な記述が存在します。
 されどこれだけでは、ジャケットイラストに描かれているような「アルビノ」であるとは、決して言い切れません。
 単に肌が白い人を指しても、病的に白いという表現は普通に使われますからね。これだけの記述では、『肖像』のエリスと『楽園』のエリスを同一人物であるとする根拠には(そして別人であるとする根拠にも)成り得ません。
 そして、上述の仮説を前提とするならば、色々と辻褄が合う部分が見えてはこないでしょうか?

 先ず私は、「楽園」のエリスはラフレンツェの娘であると考えています。これにつきましては、ジャケットイラストのエリスと「魔女とラフレンツェ」に於いてのラフレンツェの容貌に関する記述が合致する点などからも、多くの人に共通している認識でしょう。
 そして、ここで一度、ラフレンツェの背負った“黄泉の番人”という役目を思い返してみて下さい。
 “純潔”という肉体的な条件が必要とされる特異な能力が、血縁関係にはないオルドローズから継承されたものだと考えるのは、些か無理がないでしょうか?
 ラフレンツェの能力は、元々生まれ持ったものである。つまり血統の成せる業であるという解釈の方が、この点では明らかに自然です。
 ならば、この様な特異な能力を持つ血族は、周囲からどう認識されていたのでしょう。
 『魔女』、若しくは『魔女の一族』。そう呼ばれていたとしても、おかしくないとは思いませんか?


 これらに納得いただけたなら、後はひとまず纏めに入るのみです。
 仮説を含む上記の内容と、「エルの肖像」及び「魔女とラフレンツェ」の曲中にて示された記述から、私はこう類推しました。

 肖像画に描かれたエリスという少女(《理想》)に魅入られた“『肖像』の少年”が、彼女という存在を求める余り様々な手段を模索し、ラフレンツェ(《鍵穴》)を見出す。
 容貌などではなくエリスという存在の本質(《楽園》)に固執した彼は、ラフレンツェというエリスの血縁者を利用することで、己の求めたエリス(《少女》)を自らの手で生み出す(復活させる)という手段を選んだ。

 というような感じになるのですが、それにしてもこの少年の妄執は、常軌を逸していると言わざるを得ません。
 なにしろ、容姿という点なら、肖像画の少女エリスとラフレンツェは酷似している可能性が高い。普通ならラフレンツェに出会った時点で、「遂に理想の女性を見つけたぞ!」となってもおかしくないじゃないですか。

 そこで着目したいのが、「肖像画のサイン」です。上述の内容を踏まえてから見てみると、「幼い筆跡」「妙に歪な」という形容が、何やら呪的な意味合いを以て見えては来ないでしょうか?
 故に私はこれを、『魔女』たる“『肖像』のエリス”による呪術であったという可能性を考えます。
 呪いの内容は、「滅びゆくべく定められた己の肉体の復活」を、至上命題とする呪縛。蘇生に必要な条件は、「自らの血統に連なる“新たな器”」を用意する事。
 彼がラフレンツェ自身には執着しなかった点も、“最愛の娘”という立場のエリスを求めるように刷り込まれていたとすれば、説明可能でしょう。
 結果、青年へと成長した“『肖像』の少年”(オルフェウス)は、ラフレンツェを籠絡することによって“エリス”(エウリュディケ)を新たに創り上げる。

 ここまでの説明だけでは少々判りづらいと思いますので、“『肖像』のエリス”とラフレンツェ、そして“『楽園』のエリス(エル)”の関係を端的に纏めると、

“『肖像』のエリス”(以下、エリス)=ラフレンツェの母親 ※『肖像』の時点では既に死亡
“『楽園』のエリス”(以下、エル)=ラフレンツェの娘

といった解釈になります。
 但し、これは肉体という観点のみの事であり、エルはラフレンツェの娘という“器”にエリスの魂が受肉した、人為的に作られた生命という意味ではホムンクルスにも近い存在。 要するに、エルは“エリスの転生体”であると考えた訳なのです。

 これについては、何故青年はラフレンツェを裏切るような行為に至ったのかという点を考えた際に、次のような仮説を立てたからでした。
 エリスの本質たる魂を甦らせる方法が、エリスと同じ血統の人間、つまり「次代の黄泉の番人」への転生という形でしか成し得なかったのではないか。というものです。
 これなら青年の行動が「オルフェウスの冥府行」に喩えられるのも納得できるし、たった一つの事象に過ぎませんが、結界が消失したのだから当然外界に出てくるはずの亡者の行方にも説明がつくんですよ。
 つまり、この“外界に溢れ出した亡者”の中にエリスの魂が含まれていて、青年の導き(呪術的な代物だと思われる)によってラフレンツェの胎内に宿った、という解釈が可能になるんですね。

 これが後に「仮面の男Abyss」となる青年自身が自らの意志で成したものなのか、上記のように「魔女エリス」の呪的な束縛による無意識のものなのかは、もちろん何とも言えません。
 ですが、何にせよ“「仮面の男」が「エル」を創り出した”という点については、ほぼ間違いないのではないでしょうか。
 余談ですが、「魔女とラフレンツェ」の曲中にある「オルフェウスの冥府行」は、単なる比喩表現である可能性が高いと思われます。
 死者、しかも特定の誰かの魂を甦らせるという行為であれば、それが実際にどういうプロセスによるものであったとしても、「オルフェウスの冥府行」に比喩できる訳であって、青年が“実際に冥府に降りていった”のかどうかというのは、余り重要な問題ではないからです。
 但し、“エリスの魂を特定する”というものが、呪術やら魔法やらに近いメタ的な代物だった事は確かだと思われます。

 最後に、「エルの肖像」が物語全体の始点であり、「魔女とラフレンツェ」が「エルとアビス」にとっての物語の始点であるという事を明言して、Phase-1を終了させて頂きます。

続きを読む
Copyrights (C) CAZ 【2005年07月11日更新】 | Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜 | HOME
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。