地平線への鍵 【Sound Horizon考察】

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「アルベルジュ」と「アーベルジュ」の違い

 「聖戦と死神」などに登場する中心人物であるAlbers Alvarezは、曲中にて二種類の渾名で呼ばれています。
 一方が、〈ベルガ人の将軍〉や〈ベルガの死神〉、若しくは単に〈異邦人〉などとも表記されている、
「アルベルジュ/Albelge」
 そして、Britania王国の女王Rose Guine Avalonによって付けられた、〈ベルガの暴れん坊〉及び〈ベルガの同胞〉と記される、
「アーベルジュ/Arbelge」です。
 実はこの両者、どちらも別の言語による呼称であり、それぞれが持つ意味合いも大きく違っているのです。

 [belge]という部分に関しては、「聖戦と死神」第三部に於けるアルヴァレスの台詞からも、「ベルガ人」を指す固有名詞である事が明白。
 ならば問題となるのは、[Al]と[Ar]というそれぞれの語句が持つ意味です。

 まず[Al]の方ですが、これはスラブ諸語やアラビア語に於ける冠詞で、英語の[The]に相当するものです。
 つまり「アルベルジュ/Albelge」というのは、「ベルガ人の代表格」といったような幅広いニュアンスを持つ呼称であり、それ故に上記したような様々な表記によって歌詞中には表現されているのです。
 我々日本人にはいまいちピンときませんが、スラブ語――特にラテン文字(アルファベット)で表記される西スラブ語派に属するものは、カトリック教圏に於いてはギリシア語やラテン語と並んで使用されていた、準国際語とでも言うべき位置に有りました。
 その為、別項「聖戦と死神のバックコーラス」で紹介している、スラブ神話に於ける死神の名である「ウェーレス/Veles」など、ラテン語にも流入した固有名詞などが多く存在します。
 ベルガのモチーフとなっていると思われるベルギーは、近代でも様々な言語が使用されている多言語国家ですし、「聖戦と死神」の時代背景なども考慮すれば、スラブ語風の呼称が用いられる事は全く不自然ではないのです。

 次いで[Ar]の方ですが、こちらは実のところ、全く同じ表記ながら二つの言語に於けるそれぞれ違う意味を持つという、些か特殊な語句なのです。
 一つ目は、ギリシア語及びラテン語に於ける、「危険な」「乱暴者」というような意味合いで他者への悪口として用いられる言葉である事。
故に「聖戦と死神」第三部のRose女王の台詞では、〈ベルガの暴れん坊〉という表記が為されていた訳です。
 ですが、これは恐らくアルヴァレス自身はそう受け取ったというだけの話であって、Rose女王が意図したであろう「ブリタニア風」の意味は、これとは全く異なります。
 国名からも判るとおり、Britannia王国のモチーフとなっているのは現在のイギリスだと思われます。
 それに加え、〈薔薇の騎士団〉が[Knights of the Rose]という風に呼称されている点などから、殆どの方はブリタニアの母国語が英語だと思っていらっしゃる事と思います。
 ところが、西欧一帯が「ガリア/Garia」と呼称されていた時代を我々の歴史に当て嵌めて考えてみますと、英語など存在していない頃であった可能性すら有るのです。
 では、英語が生まれる以前にかの国で使われていた言語は何でしょうか。そう、ケルト語です。
 実は「ブリタニア風」の意味とは、このケルト語によるものなのですね。

 ケルト語に於ける[Ar]には、「近い」という意味があります。
 つまり「アーベルジュ/Arbelge」という呼称は、Britannia王国では「近しき異邦人」といったような意味合いの親愛を表すものであり、だからこそLuna Balladの詩では〈ベルガの同胞〉という表記が為されていたという訳なのです。

 それを踏まえてみると、なんとも小粋な言葉遊びではないですか。この渾名を考えついた時の、Rose女王の悪戯っぽい笑い声の理由も、これでお解りになるでしょう。
Copyrights (C) CAZ 【2005年07月10日更新】 | Chronicle 2nd | HOME
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